7.フランドール・スカーレットVS魂魄妖夢(その1)

 幽々子の邸宅の庭で、フランは大時計の長針を捻じ曲げたような棒を、そして妖夢は楼観剣を構えて向かい合った。
「お嬢様も変なことを・・・あんな小娘、私で充分なのに・・・」
咲夜がはらはらしながらフランを見ている。
「そうだな・・・」
魔理沙が頭のコブをさすりながら言った。「おまえのノーザンライトボムは幻想郷一だぜ」
ストン、とその額にナイフが刺さり、魔理沙はそのまま仰向けに倒れた。
「さっきから何二人で漫才やってんの
冷ややかに魔理沙を見下ろしながらアリスが言った。
(で、こっちの用件は後回しか。あーあ・・・上海や倫敦と遊んでようかな)
「早く始めよう!」
フランはやる気まんまんで得物を振り回している。
「・・・・」
妖夢は剣を中段に構え、無言でフランを見据えていた。しかし、
(これって絶対先日の仕返しだな・・・はあ・・・)
と、心の中ではため息をついていた。


 ガタガタと音がして、庭の片隅に音楽機材が運び込まれてきた。
そして、白玉楼に住んでいる三人のファティマ、ルナサ・メルラン・リリカの「騒霊三姉妹」が入ってくる。
「BGMお願いね〜」
と幽々子が三人に声をかける。
「何にしますか?」
とルナサが尋ねる。「“広有”、“妖々夢”のどちらか・・・」
「“U.N.オーエン”ね」
その時咲夜が口を開いた。
「えー!?」
リリカが顔をしかめた。「そんなのまだアレンジしてないんだけど」
「音楽家ならそれくらい即興でアレンジなさい」
「いや、私たちは音楽家じゃなくてファティマ・・・」
ルナサがもっともなことを言いかけたが、しかしその時、
「その挑戦、受けたー!」
とメルランがわめいた。
「何ィー!」「メルラン姉さんー!」
「聴衆の欲するところを形にせずして、いったい何のアーティストかー!」
「いやだから私たちはアーティストじゃなくてファティマ」
「そうそうMH戦闘用アンドロイド」
「じゃ何?この燃える対戦をBGMなしでやるっていうの姉さんにリリカ?」
「うーん、それは・・・」
 普通いらんだろ、と三人の会話を聞きながらアリスは思ったが、
ルナサとリリカはどうもメルランの言葉に考え込んでしまっている模様。
こいつら絶対ダムゲートコントロール受けてないだろ、とアリスは心中でつぶやいた。
 「早く〜」
と幽々子がせかす。
「はいっ」
ルナサが返事して、「すみません、ちょっとフランドール様にお時間をいただきたいのですが・・・」
「なあに?」
とフランがルナサに訊く。
「はい。“U.N.オーエン”のアレンジについてちょっとご指導いただきたいのです」
「わかった」
フランは三姉妹のところに走って行き、彼女たちと譜面を前になにやら話し始めた。
「あー?まだ始まってないのか?」
その時、魔理沙が起き上がってきた。
「少女アレンジ中、ってところね」
と咲夜。


 やがてフランはルナサに向けぐっと親指を立てると、妖夢の前へと戻っていった。
「準備完了です」
とルナサが幽々子に言う。幽々子はうなずいて、
「では、はじめ」
と扇をひらりと投げた。その扇はフランと妖夢の間を抜け、ふわりと床に落ちる。
三姉妹が“U.N.オーエンは彼女なのか?”アレンジ版の激烈な第一声を叩きつけたのと、
フランと妖夢、互いの得物が凄まじい音を立てたのはそれと同時だった。

 

8.フランドール・スカーレットVS魂魄妖夢(その2)


 「よく止めたな!」
フランドール・スカーレットは宝石のように輝く背中の翼をはためかせて空中に舞い上がると、
紅く燃える炎の弾を立て続けに妖夢目がけ放った。
「!!」
妖夢は素早く前へ跳んで炎をかわすと、フランの下から剣を一振りしてソニック・ブレードを放つ。
「遅い!」
フランはひらりとよけて着地し、間髪入れず妖夢に襲いかかる。
 幽々子はそのスピードに心中、舌を巻いていた。
彼女の姉レミリアも相当のスピードだが、それを上回るかもしれない。
紫との対戦では彼女のダイバーパワーが災いし、紫にすべての動きを読まれて全く力を出せなかったが、
これが彼女本来の力ということか。
 フランと妖夢が再びぶつかった瞬間、フランはふっと姿を消した。
(―――上!)
フランが空中から一直線に突っ込んでくる。
(デーモンロードアローか!)
妖夢は攻撃ポイントを予測するとばっと飛び退き、フランの着地点にソニック・ブレードを放った。
「うわっ!」
フランが悲鳴とともに後ろへ吹き飛ぶ。妖夢は追い打ちをかけるべくフランに跳びかかったが、
その瞬間背筋にぞくりと鳥肌が立ち、とっさに横へ転がった。
一瞬前に妖夢がいたところの床が激しい音とともに砕け散り、炎が噴き上がる。
 「かわしたか。残念」
炎の中から姿を現したフランがにやりと笑った。
(分身?いや・・・ミラーか!)
妖夢は起き上がると、背後から襲いかかってきたフランの一撃を受け止める。
それと同時にもう一人のフランが正面から打ちかかってきた。
「―――!」
妖夢はそれをぎらりと睨みつける。すると妖夢の姿が二人に分かれ、そのフランの攻撃を受け止めた。
そして二組のフランと妖夢が激しく切り結び始める。
「おお、ミラー同士の対決かよ、初めて見たぜ」
魔理沙が目を瞠る。その横で咲夜はくすりと笑った。
「――もう決着はついたわ」

 「おまえもミラーを使うのか!」
フランは楽しそうに言った。「面白いな!でも、“二人”では私に勝てない!」
二人のフランがいったん飛び退き、炎の壁を放った。妖夢はソニックブームでそれを吹き飛ばして斬りかかったが、
目の前には四人のフランがいた。
(ミラー分身か!)
妖夢がそう思った時、
「あははははっ!」
フランは高笑いとともに四方向へ散った。
(えっ?)
ミラーで二人に分離した者が残像分身した場合、少なくとも二人が他二人の動きをトレースするはずだ。
(ああ・・・あんなところで当惑して動きを鈍らせるなんて)
幽々子はふうとため息をついた。「まだまだね〜」
「くらえ!」
妖夢の耳に四方からフランの叫び声が聴こえた刹那、二人の妖夢は四方からの神速の一撃を食らって宙に跳ね上げられ、
四人同時の“バッドレディスクランブル”でさらに垂直に突き上げられると、最後に上空からの巨大な炎の剣で床に叩きつけられた。
「妹様必殺のダブル・ミラー、四人分離攻撃“フォーオブアカインド”。これを受けて立てる騎士はいないわ」
咲夜はくすくすと笑った。床の上の妖夢はぴくりとも動かない。
 「あなたはもう、コンティニューできないわね」
一人に戻ったフランが晴れやかな笑顔で着地した。騒霊三姉妹の演奏がぴたりと止む。
 「ちょっと、やりすぎよ!」
アリスが妖夢に駆け寄った。「ああ・・・ひどい火傷・・・」
「そいつは、私の館の門番を半死半生の目にあわせた。本来なら消し炭になって然るべきところだが、
お姉様からはあくまでも殺すな、と言われていたから殺さない。お姉様の慈悲に感謝するがいい」
フランはそう言うと幽々子のほうを見て一礼し、
「ありがとうございました」
と言った。
「全く・・・よいものを見せてもらったわ」
幽々子は妖夢のそばにかがみ込んだ。「博士、どうかしら」
「すぐにファティマメンテナンスルームに運ばないと。手が空いてる者は全員手伝いなさーい!」
アリスは周囲を見渡しながら叫んだ。

(続く)

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