東方W


 (仮面ライダーW!今回の依頼は!)
 (省略)
 (アバンタイトル)

 Wはゆっくりと身構え、タクティカルホーンを三度叩いた。
 “ファング!マキシマムドライブ!”
 Wの脚に刃が発生した。
 Wはそのまま身を沈めて待つ。
 マキシマムドライブ発動音のみが辺りに響く。
 と、Wの背後の空間が揺らぎ、黒い影が出現した。
 「そこだ!」
 ファングジョーカーの鋭敏な感覚がその出現を察知し、一瞬のうちに身を翻す。
 「「ファングストライザー!!」」
 竜巻とともに回し蹴りを繰り出す、しかし、その蹴りをその相手はがっちりと受け止めた。
 「なに!」
 “ククク・・・さすがの反応です。しかし、これ単独では・・・私には効きませんね”
 そこにいたのは、ウェザー・ドーパントだった。
 「何!井坂深紅郎!?」
 “アクセルは別世界に放り出して今はあなたたちだけ。そして今・・・そのあなたたちも引き裂いてあげましょう”
 ウェザーが凄まじい突風を吹き出してWを吹き飛ばす。
 「うわっ!」
 その向こうに、空間がぐわっと口を開いた。
 Wはその中に呑み込まれる。
 空間が閉じ、そこにはウェザー・ドーパントのみが立っていた。その姿が井坂深紅郎に戻る。
 その前へ、ボーダー・ドーパントが現われた。そして黒須良の姿に戻ると、その場にばったりと倒れた。
 「見事な力でしたよ」 
 井坂はそれを見下ろしながらにやりと笑った。そして、
 「これでやつらも分断された。もはや恐れるに足りん・・・・」
 高笑いしながら、その場を立ち去った。 

 

 「―――はっ!」
 翔太郎は目を覚ました。
 「何だ?変身が・・・!」
 意識を取り戻したということは、変身が解除されたことを意味する。
 「どうしたんですか?翔太郎さん!」
 何か異常事態が起こったことを察した蓮子が翔太郎に声をかけた。
 「変身が強制解除された・・・」
 翔太郎は直前の状況を思い出した。ウェザーに吹き飛ばされて、空間の裂け目に飛び込んで・・・しかし、この世界にいるならば、どこに転送されようとも意識は共有で
き、変身も解けないはずだ。それができないということは・・・・・・
 「まさか・・・フィリップが・・・別世界に・・・」
 「えっ!?それって・・・」
 蓮子が驚く。「それじゃあ・・・」
 「フィリップと分断されちまった・・・」
 翔太郎は唇をかんだ。
 念のためにスタッグフォンでフィリップにつないでみたが、圏外でつながらなかった。
 どこへ飛ばされたのか・・・それにもし、飛ばされた先が悪かったら、フィリップの命に関わるのではないか?ファングメモリはフィリップとともに向こうに行っているだろう
から、ある程度は安心だが・・・
 「フィリップ・・・・・・!」
 翔太郎は呆然として立ち上がった。

 

 「ええっ!フィリップくんが!?」
 事務所に戻ってきた亜樹子は翔太郎の言葉に仰天した。「そそそそんな!どーすんのよ!」
 「落ち着け!」
 翔太郎が制しようとしたが、
 「これが落ち着いていられるかー!竜くんもいないのにフィリップくんまでいなくなったらドーパント出てきたらどーすんの!それに、蓮子ちゃんたちも・・・!」
 そこで亜樹子は、蓮子の後ろに立っている大人びた金髪の少女に気づいた。
 「こちら・・・メリーちゃん?」
 「はい、マエリベリー・ハーン。通称メリーです」
 メリーは丁寧にお辞儀した。
 「おお、日本語ペラペラ・・・」
 亜樹子は彼女に面食らって少し落ち着いたようだ。
 「とにかくこれからどうするか考える」
 「考えましょう」
 翔太郎と蓮子が帽子を取った。

 

 郊外から戻ってきた井坂深紅郎は、腹が減りつつも意気揚々と園咲家の門をくぐった―――ところで立ち止まった。
 そこには、テラー・ドーパントが立っていた。
 テラーは訊ねた。
 “おまえは何をしてきたのかね・・・”
 「い、いったいどうされたのです」
 予想外の事態に、さすがの井坂もうろたえて訊き返す。
 “質問に質問で返すな・・・”
 テラーの足元から、濁流のような液体が染み出してきた。
 “質問に答えろ”
 「“仮面ライダー”を・・・葬ってきました」
 濁流が井坂の周囲を取り巻いた。
 “誰がそうしろと言ったのかね・・・”
 井坂はうろたえて、
 「奴はあなた方にとっても仇敵ではないのですか、それを葬って何が・・・!」
 “連れ戻せ・・・”
 「は?」
 “彼を連れ戻せ・・・”
 「なぜ?」
 “この世界の秩序を乱すことは許されない・・・”
 「は・・・?」
 その時濁流が激しく波打ち、井坂の周囲に壁となった。今にも井坂を飲み込みそうな勢いだ。
 “連れ戻せ・・・”
 「は・・・」
 井坂は恐怖に震えた。これ以上質問できる雰囲気ではない。それに腹の減ったこの状態では、いつも園咲琉兵衛にとっているような毅然とした態度を取る気力が出な い。
 「はい・・・・・・・・」
 “食事をしたら、すぐに向かうがいい・・・”
 濁流が引き、テラーの姿が消える。
 井坂は呆然とし、その場に膝をついた。
 それを引き金にしたように彼の腹が大きく鳴った。

  (OP“W-B-X~W Boiled Exetreme~)

 「黒須志津子は、かつて深く愛し合った御影英彦がほかの女性と結婚することを知り、復讐の為にボーダーのメモリを入手し、手を下そうとした。だが、いざとなるとか つての情がよみがえり、どうしても手が下せなかった。それを知った弟の黒須良はそのメモリを盗み、自らがドーパントとなる処置を受け、姉に代わって御影英彦夫妻に 手を下した。そのころは異世界までつなぐ力はなかったろうから、ここまで発見されないとなると、もう望みはないだろう。黒須良も近郊の音楽大学に通っており、仲間たちと風都文化ホールで小コンサートを開いたこともある。また姉のコンサートで楽屋に行く機会も多かったろうから、土地勘もあった・・・」
 翔太郎は、ダブルドライバー装着時にフィリップの意識から竜の連絡の内容とフィリップ自身の推理を読み取っていたが、それを亜樹子たちにかいつまんで話してい た。
 「・・・だが、姉の志津子はそれを知ってしまった。かつて愛した男の死、そして弟の犯した罪を。おそらく志津子は一時的にドーパントになった際、その力が体内に残留 、生身でもその力を使うことができた。しかしその反面、メモリの副作用で精神的に不安定になっていた。そして、事件の真相を知った時のショックで力を抑えられなくな り、暴走してしまった。その結果彼女は空間の隙間に姿を消し、行方不明となった。黒須良が今もドーパントを続けているのは、おそらくは消えてしまった姉を探すため・ ・・そのために自らの力をさらに高め、何としても姉を見つけようとしているんだ。不可解な失踪事件の数々は、そんな彼の力に巻き込まれたものだろう。そしてその心を 井坂は利用して、研究材料にしている・・・」
 「・・・何だか切ない話ね」
 と亜樹子は言った。「お姉さんの恨みを代わって晴らしたことが、逆にお姉さんを苦しめて、その結果が・・・」
 「・・・人の心を読んで判った気になるからそういうことになっちゃうんだよ」
 その時、こいしが少し沈んだ声で言った。
 「人の心には、外からじゃわからない、その先があるんだから・・・」
 そして、胸の青い球体にそっと触れる。
 「うお、こいしちゃん、なんか深いよ!」
 亜樹子はこいしの外見に似合わぬセリフに思わずたじっとなった。
 「そうそう、恋愛に関してはとくにね~」
 メリーが紅茶を一口飲んで言った。ちなみに蓮子が淹れたものである。
 「殺したいほど憎い、っていうのは死ぬほど好き、の裏返しってね」
 「メリーも何わかったようなこと言ってるの」
 蓮子が顔をしかめた。それから翔太郎のほうを見て、
 「その・・・ドーパント?が黒須良さんとして、じゃあ、私やこいしちゃんが見た女の人は誰になるんですか?」
 「うーん」
 翔太郎は腕組みして、「やっぱり、黒須志津子・・しか考えられないな」
 「ですよね・・・でも」
 蓮子も腕組みして、「だと、私やこいしちゃんの場合は志津子さんの仕業、となるんですよね。でも、力が暴走したって・・・」
 「その力をまた制御できるようになってきたんじゃないかしら」
 とメリー。「強い力も、強い心を取り戻せばきっと制御できるわ。時空の狭間から、別の世界を通して、この世界に帰ってこようと・・・いや、蓮子が巻き込まれてここに来 てるってことは、彼女も断続的にこちらへ・・・」
 メリーはお茶を飲み干して、
 「蓮子が通って、私が追ってきたスキマはもう閉じてしまっていたわ。時間切れってとこね。また新しいのを見つけないといけない。そのドーパントに近づくのが危険な今は、彼女の作ったものを通るのが賢明。つまり、彼女を見つけることが先決と思うわ」
 「それに、黒須志津子を見つければ、黒須良も・・・!」
 亜樹子が手を叩いた。「言うことを聞いてくれるかも!」
 「ああ」
 翔太郎は右拳と左の掌を打ち合わせ、「その線でいってみるか!」
 その時、
 「フィリップはどうするの?」
 とこいしが言った。
 「あの家には行かないの?フィリップに何かあったら・・・」
 「しかし・・・」
 翔太郎はしばらく目を閉じて、それから目を開くとこいしを真摯に見つめながら言った。
 「今のオレたちじゃあのドーパントに太刀打ちできない。こいしちゃんの力も、あの能力には無効化されてしまう。今のオレたちには、黒須志津子を探し出すことが、時間はかかるけれど一番確実な方法なんだ。フィリップは、きっと大丈夫だ。あいつを一番よく知ってる相棒のオレが言うんだから、間違いない。だから、こいしちゃん・・・」
 「・・・わかった」
 こいしはうなずいた。「翔太郎がそう言うんなら、きっとそうなんだって、私も信じる」
 「ありがとう」
 翔太郎はこいしの肩に手を載せ、微笑んだ。
 「それじゃ、早速その人を探しにいきましょう」
 と蓮子。
 「でも、どこを探すの?」
 と亜樹子。
 「そこはウォッチャマンやサンタちゃんやクイーン&エリザベスの情報網を総動員だ」
 翔太郎が立ち上がった。
 その時、スタッグフォンが鳴った。
 「はいもしもし・・・・あ、刃(じん)さん」
 風都署の刃野幹夫からだった。
 「何か新しいことが・・・え?不審者を追跡中?」
 翔太郎は眉をひそめた。

 「そうだ!」
 刃野は走りながら携帯に向かって叫び続ける。
 「なんかネコっぽいコスプレしてる女の子なんだが、身体能力が常人離れしてやがる・・・!」
 「やっと・・・観念したか・・・!」
 真倉俊が、ふと足を止めてこちらに向き直った少女に声をかけた。
 「はあはあ・・怖がらないで!警察だ!ちょっと話を聞きたいだけだから!」
 真倉はゆっくりとその少女に近づいていった、が、

 “ぎゃー!”
 スタッグフォンから真倉の悲鳴が聞こえてきた。
 “うわー!”
 一瞬のちに刃野の悲鳴が聞こえた。
 “お、おちょくりやがってー!”
 と真倉の声。
 「刃さん、そこどこですか!オレが向かいます!」
 「私も行く」
 そこへこいしがひょいと顔を出してきた。「そいつ、なんだか心当たりがありそう」
 「・・・わかった。すぐに」
 翔太郎は刃野、こいし双方に答え、電話を切った。
 「亜樹子、ウォッチャマンたちに連絡とって、黒須志津子らしい女性の情報を集めてくれ」
 「わかった!」
 「私も手伝います」
 蓮子も立ち上がった。
 「それじゃ、私も」
 メリーも立ち上がる。
 亜樹子は笑顔で、
 「それじゃ、三人で行くわよ!」
 「はい!」
 蓮子も笑顔で返事した。
 「何だか面白いことになってるのね」
 メリーものんきに微笑んで言った。「それじゃあ、行きましょうか」

 

 「・・・・・・・・・」
 フィリップは野原の道を歩いていた。
 異世界に飛ばされたフィリップはしばらく途方に暮れていたが、やがて遠くに人の住む町らしきものを見つけ、そちらのほうに向かっていた。
 ファングメモリはちゃんとフィリップの側についており、とりあえずの危険からは無縁である。
 「ここはどこだ・・・照井竜もこの近くにいるのか・・・」
 つぶやいたとき、
 「ねーねー」
 目の前にいきなり何者かが降下し、フィリップは仰天した。
 「わっ!」
 ファングメモリが警戒の声を上げて跳ねる。
 「うわっ!」
 今度は目の前の何者かが仰天した。
 それは、背の高い、高校生くらいの外見の少女だった。学生服のような感じの白いシャツと薄緑色のスカートをつけていたが、異様なことには白いマントをつけ、その 下には、巨大な黒い翼をはためかせている。衣服の胸の部分には、赤く巨大な目玉のようなものをつけていた。
 「び、びっくりしたー!」
 その鳥少女は、一種禍々しいその姿からは想像できない綺麗な声を発し、胸をなでおろす仕草をした。悪意や害意は感じられない。
 彼女はファングメモリに興味を示したようで、
 「なんなのそれ?」
 と訊いてきた。
 「それを聞きに降りてきたのかい?」
 とフィリップが訊くと、少女はぱんと手を叩いて、
 「あ、そうだ、違う違う。ちょっと人探しなんだけど」
 と言った。かなり移り気なようだ。
 「人探し?」
 「えっとね」
 鳥少女は両手で帽子の輪郭を作り、それから指でリボンの輪郭をなぞって、
 「こういう黒い帽子かぶって、胸にワイヤーつきの青くて小さいボールをつけた女の子知らない?」
 と尋ねてきた。
 フィリップは驚いて、
 「それは・・・古明地こいしちゃんのことかい?」
 少女はぱあっと明るい表情になって、
 「そうそう!こいし様!どこにいらっしゃったの?」
 とさらに身を乗り出して訊いてきた。
 この異形の存在に「様」とつけられるとは、こいしはより上の立場らしい。あのような力を持っていることも納得だ。
 「ぼくたちの世界で会った」
 とフィリップは言った。「何者かによってぼくたちの世界に飛ばされたんだ。そしてぼくも、その力によってこちらに飛ばされてしまった」
 「う、うにゅ?」
 少女は首をかしげた。「ど、どういうこと?」
 その時、二人の横の空間がぐにゃりとゆがんだ。
 「!!」
 “見つけました・・・”
 そこから、ウェザー・ドーパントが姿を現わした。
 「井坂深紅郎!」
 フィリップが身構える。ファングメモリもフィリップの前に飛び出し、彼を守る態勢になった。
 「うわ!?」
 少女はまたビックリして、
 「誰あいつ?」
 とフィリップのほうを向いた。
 「ぼくをこの世界に飛ばしてきた張本人だ」
 とフィリップ。
 「じゃあ、こいし様を飛ばしたっていうのも・・・!」
 「そうだ」
 実は違うが、ここはそう言ったほうが事が有利に進みそうだ、とフィリップは判断した。
 “待ちなさい。私は戦いにきたのでは・・・”
 ウェザーがそう言いかけた時、
 「こいし様をか・え・せぇぇぇ―――――!!!」
 少女――霊烏路空が黒い翼を羽ばたかせて身を翻した。中空で両腕を大きく広げたその瞬間、その全身がまばゆく光を放つ。そして、獲物に襲い掛かる猛禽の如く一気にウェザーめがけ急降下した。
 「ぐわー!」
 さほど戦う気のなかったウェザーは空の「退かぬ媚びぬ省みぬ」的大技をまともに食らい、空間の裂け目に吹っ飛ばされた。その姿が消える。
 「待てええええ!」
 空はそれを追いかけてさらに踏み出したが、その一撃は空振りに終わった。
 「逃げたか!」
 空は舌打ちした。そしてフィリップのほうを振り返り、
 「大丈夫?とりあえずあいつは追い払っ――」
 言いかけて、フィリップがその場にしゃがみ込んでいるのに仰天した。
 「あ、あれ!?どうしたの!?気分でも悪い?」


 フィリップの周囲には無数の本棚が林立していた。
 「――この世界の“地球の本棚”にアクセスできた」
 フィリップはふうと息をついた。
 「ここはこいしちゃんの世界のようだ。少しだけだが、これだけ特異な材料があれば・・・検索してみよう」
 彼の周囲の無数の本棚が一気に整理され、一冊の本が目の前に残った。
 『幻想郷』と書かれている。
 フィリップは手早くその書物をめくっていった。

 
 「あ、気がついた?」
 フィリップが立ち上がったのを見て空がほっとしたように言った。
 「ありがとう。大丈夫だ。さっきは助けてくれてありがとう、“おくう”」
 フィリップは空に礼を言った。
 「いやあ、それほどでも」
 空は照れ笑いをしたが、あれ?と首をかしげて、
 「どうして私の呼び名を知ってるの?」
 と訊いた。
 「君がさっきの能力を持ってるのと同じように、ぼくはこういう能力を持っているのさ」
 とフィリップ。
 「むう・・・さとり様みたいな力を持ってるのね」
 空は一人で合点している。
 (古明地さとり・・・古明地こいしの姉で、霊烏路空の主人。人の心を読む妖怪“さとり”・・・か)
 フィリップの頭にはすでに基本的な「幻想郷」の知識が収まっていた。向こうでこいしが少し口にした「地霊殿」についても理解できていた。この世界は非常に興味深い
が、今はそれに没頭している暇はない。
 「あいつ何?悪い奴?」
 と空が先ほどウェザーの出てきた空間を指した。
 「ああ、悪い奴だ」
 とフィリップ。
 「そっか。今度は逃がさない!」
 空はぐっと両手を握った。
 (しかし、さっきのウェザーの様子、少し妙だった。ぼくと戦う気がないようなことも言いかけていたし・・・向こうで何かあったのか?)
 フィリップがウェザーの様子に疑問を感じたとき、再び、先ほどとほぼ同じところの空間が揺らいだ。
 「!」
 空がきっとそちらを睨む。「ちょっと離れてて・・・全力でいくから」
 その右腕と両足に増加パーツが出現する。
 それと悟ったフィリップがその場を離れようとしたが、はっとして、
 「待て!攻撃するな!」
 と叫んだ。

 

 翔太郎とこいしが現場に駆けつけた時、そこには刃野と真倉がくたくたになってのびており、それを見下ろしながら、
 「全く、ここの男は体力がないねえ・・・」
 深緑の衣をまとった、三つ編みの赤毛の少女がにやにやと笑っていた。その頭には猫の付け耳をしている。
 それを見たこいしは、
 「・・・お燐!!」
 嬉しそうに叫んだ。「こっちへ来てたの!」
 その声にその少女はぴくっとし、声のほうを向いて、
 「・・・・こいし様っ!!」
 満面の笑顔になると、ネコまっしぐらでこいしに駆け寄り、その前に控えた。
 「もう・・・心配したんですよ!!」
 「ありがとう、お燐」
 こいしはその頭をやさしく撫でた。そして翔太郎を見上げ、
 「私は大丈夫よ。この人たちによくしてもらってたから」
 「よかったです・・・」
 少女はほっと息をついた。「さとり様もほんとうに心配していて、ご飯もお召し上がりになっていないんですから」
 「そう・・・ごめんなさい」
 こいしはちょっとうなだれたが、しかしどこか嬉しそうだった。
 「この子はこいしちゃんの知り合いなの?」
 と翔太郎。
 「うん、ペット」
 とこいし。
 「ペッ・・・!?」
 どういう趣味なんだ、と思ったが、今さらこいしが普通の女の子でないことは明白だったので、突っ込みはしなかった。
 そこでその少女に、
 「君もこっちへ飛ばされたのか・・・どうやってこっちへ?」
 と訊いた。
 その少女――火焔猫燐は、ちょっと考えて、
 「そうそう、おくうと一緒にこいし様を探してて、その途中、変な女に声をかけたら、その女は消えてしまって、あれっと思ったら、あたいも見知らぬところに出てきちゃったの」
 と答えた。
 「黒須志津子か・・・君が出てきたのはどこだい?そこから帰れるかもしれない」
 「ええと」
 燐はちょっと考えた。
 「覚えてる?」
 とこいし。
 「おくうと一緒にしないでくださいよ。えっと、こちらです」
 燐は指で方向を指し示した。「しかし、ごちゃごちゃしたところですね、ここは」
 「上手くいきそうだね」
 とこいしが翔太郎に言った。
 「だな」
 翔太郎はスタッグフォンを取り出し、亜樹子に電話して呼び寄せようとした。
 その時、先に亜樹子から電話がかかってきた。
 「はい、翔太郎・・・」
 “翔太郎くん!私たちが聞き込んでみたんだけど、黒須志津子らしい女のこと、ちょっとした噂になってるわよ!”


 「・・・目撃情報が広まってるの!紫の服を着た長い黒髪の女性!どこからともなく現われて、また突然姿を消すって、一部では宇宙人とか幽霊騒ぎになってるみたい!」
 亜樹子は携帯に向かってまくし立てる。そばには蓮子とメリー、そしてウォッチャマン、サンタちゃん、エリザベス&クイーンが立っていた。
 「それもここ最近のことらしいよ。で、その目撃情報が、どんどんあるところへ近づいていってるの!」
 翔太郎ははっとして、
 「まさか・・・黒須志津子の家?」
 「そう!正解!メリーちゃんによれば、どんどん力が制御できるようになって、行きたいところへ行けるようになってきてるからだろうって!」
 がなる亜樹子の隣でメリーがうんうんとうなずいた。
 「そうか・・・」
 翔太郎は辺りを見回した。「そういえば、ここも・・・」
 刃野たちと燐が大立ち回りをやっていたここも、黒須邸に近い郊外だった。
 「亜樹子!こちらもこいしちゃんの知り合いを見つけて合流した!オレの言うところへ急いで向かってくれ!」
 「りょ、了解!タクシー拾って行くね!」
 亜樹子が電話から意識を離すと、その声を聞いていた蓮子がすかさずタクシーを呼び止めていた。
 「亜樹子さん、乗ってください!」
 「うおー、ありがとー!」
 亜樹子はウォッチャマンたちに乱暴に手を振ると、タクシーに乗り込んだ。そして運転手に携帯を突き出し、
 「こいつの言うところへ向かってください!」
 と言った。
 「面白くなってきたわ!」
 メリーが楽しそうに言う。
 「緊張感ないわね・・・」
 蓮子が苦笑した。

 

 「ここです、こいし様」
 空を飛ぶようなスピードで走っていた燐が立ち止まった。
 「なんてスピードだよ・・・」
 その後を必死で追いついた翔太郎が息を切らしながら言う。
 「話が早くていいでしょ?」
 全く息を乱してないこいしがくすっと笑った。
 (ハードボイルダーは、フィリップが黒須邸に乗っていったので、事務所になかった)
 少し遅れて、タクシーがその場に到着した。亜樹子、蓮子、メリーが次々に下りてくる。
 「あ!」
 メリーが嬉しそうに言った。「スキマがまだ開いてるわ!」
 翔太郎たちの目には何も見えないが、彼女の目には見えるらしい。
 「こいしちゃん、知り合いの人と会えたんだね」
 と蓮子がこいしに声をかける。
 「うん」
 こいしはにっこりと笑った。
 「そのスキマから、黒須志津子を追えるのか?」
 と翔太郎がメリーに尋ねる。
 「いけると思うわよ」
 メリーはうなずいた。「私一人ならいろいろ動けるけど、複数人じゃそうはいかないから、つながりが一番強いところに出ていくわ」 
 「よし、じゃあいくか!」
 翔太郎の声に、
 「はい」
 「うん」
 「はいにゃー」
 蓮子、こいしと燐が進み出る。
 「あ、あたしどーしよー・・・」
 亜樹子が逡巡する。
 「亜樹子はフィリップがもし帰ってきたときのためにこっちに残っててくれ」
 と翔太郎。亜樹子は、
 「そ、そう!ざざ残念だけどそれが役目ならそうするわ!」
 と、ほっとしたように言った。
 「それじゃ、いきましょう」
 メリーが進み出て、空間にそっと指を這わせた。その指先が切り取られたように見えなくなる。
 「さ」
 メリーの差し出す手を、先ず蓮子が握った。
 「手をつないでください」
 「わかった」
 蓮子の手を翔太郎が握り、その反対の手をこいしが握り、その反対の手を燐が握った。
 「それでは、いきますよ。一緒に足を踏み出して―――」
 メリーがすっと一歩を踏み出した、とたん、五人の姿はその場から消えてしまった。
 「ききき消えたー!」
 亜樹子は目をむいて、
 「大丈夫なのー!?」
 と声を上げた。 

 (Aパート終了、CM)

続き→

戻る