(Bパート開始)
「ここですね」 蓮子は立ち止まった。「私が出てきたのは、ここです」 翔太郎と蓮子の二人は風都のとある駅前の商店街へとやってきた。探偵事務所からは歩いて10分あまりのところだ。 「初めてのところなのによく覚えてるね」 と翔太郎。 「初めてのところでも迷わないんですよね」 蓮子は苦笑した。「星の位置で時間がわかるから、その関連ででしょうか」 「しかし、メリーさんがどこにいるかとなると・・・」 翔太郎が帽子をかく。しかし蓮子はきょろきょろと辺りを見回して、 「メリーは軽はずみに動くような性格ではないので・・・多分近くの24時間営業のレストランあたりで“待てば海路の日和あり”だと思うんですが」 「そうか。となると・・・」 翔太郎はこの辺りの地理を知り尽くしている。「こっちだ」 蓮子を連れて、足早に直近の24時間営業ファミレスに向かう。 二人がファミレスに入ると、 「――いらっしゃいませ!お二人様でしょうか」 夜明けのけだるさを感じさせない模範的な店員の明るい声に、蓮子は、 「あの、ここでずっと待ってる金髪の女の子、いるでしょうか?大学生くらいの」 と単刀直入に訊いた。 その店員は、ああ、と合点したように、 「はい、ずっとお待ちの方がいらっしゃいますよ」 と言った。 「ありがとうございます!」 蓮子は素早く店内に目を走らせた、その時、 「蓮子!!」 店の奥の角のところで一人の金髪の娘が立ち上がっていた。 「・・・・・メリー!!」 彼女の姿を見た蓮子は顔をほころばせ、小走りにその娘のほうに走っていく。 「蓮子!」 その娘も蓮子のほうに走ってきて、自分の手を取ろうとした蓮子より先に、蓮子をぎゅーっと抱きしめた。 「ちょっ、メリー、こんなところで・・・!」 蓮子が辺りを見回しながら真っ赤になる。店内には、徹カラ明けの学生やら仕事前、あるいは時間調整のための一服をしているサラリーマンがいたが、降ってわいたようなこの状況に目を丸くしていた。 「もう、心配したんだから・・・!」 マエリベリー・ハーン――メリーがほっとしたような表情と声で蓮子に声をかける。 「でも、きっとここへ戻ってくるって信じてたわ・・・」 蓮子はふうと息をついて、 「ごめん、心配かけて・・・」 と言った。 「違う世界での再会・・・どちらもお互いのことをよくわかってた、親友だからなせる業だな」 それを見ながら翔太郎はつぶやいた。 「涙の再会、ってやつですか?」 と店員が翔太郎に訊く。 「そんなところだ。あ、あの子にオレたち二名追加で、オレのおごりってことでお願いする」 翔太郎が笑ったとき、スタッグフォンが鳴った。 「はい・・・・なに、照井から?」 電話はフィリップからだった。 “そうだ。どうやらドーパントの正体は黒須良のようだ” 「何!?弟のほう?」 “ああ。今ぼくが黒須邸に着いたところだが・・・照井竜の気配がない” 「それは・・・」 “ドーパントの能力に巻き込まれたのかもしれない。相手はどこから出てくるかわからない。翔太郎、ドライバーを頼む” 「わかった」 翔太郎は再会を喜び合っている蓮子とメリーに声をかけ、メリーの席に腰を下ろした。 「この人は?」 とメリー。 「私が今、ご厄介になってる私立探偵の左翔太郎さん」 と蓮子が答えた。「昨晩、上半身だけメリーの前に出てきたでしょ?」 「・・・・・・あ、あの人?」 メリーが目を丸くして、「パジャマに蓮子みたいな帽子かぶって出てくるからびっくりしちゃった」 「はは・・・」 翔太郎は苦笑して、蓮子に声をかけた。 「蓮子ちゃん、ちょっと変身して意識がなくなるから、うまいこと頼む。ここはオレのおごりにするから、何頼んでてもいい」 「は、はい」 蓮子は真剣な表情になった。 「なあに?」 メリーがきょとんとする。 「後で話すわ」 と蓮子。 翔太郎はダブルドライバーを装着した。同時に感覚がフィリップと共有される。 |
フィリップはハードボイルダーを後にして家に近づく。 目の前には黒須邸があった。竜のバイクが乗り捨てられている。辺りには何の気配もない。 と、フィリップの腰にダブルドライバーが出現した。翔太郎がドライバーを装着したのだ。 静寂の中、さらに近づいていくと、突如家の玄関の裏のほうから激しい音が聞こえた。 “何だ?” 「行ってみよう」 “気をつけろフィリップ” 獣の咆え声とともに、ライブモードのファングメモリが現れた。 「変身するよ翔太郎」 “わかった” フィリップはファングメモリを手にすると変形させてメモリ部分を露出させ、スイッチを入れた。 “ファング!” 翔太郎はジョーカーメモリを起動させる。 “ジョーカー!” そしてドライバーに挿入した。同時に意識を失い、ソファにもたれかかる。 「変身」 フィリップはファングメモリをダブルドライバーに挿入、同時にジョーカーメモリが転送されてきた。 バックルを左右に押し広げる。 “ファング!ジョーカー!” フィリップは仮面ライダーW・ファングジョーカーに変身した。 Wはドアノブに手をかける。 その瞬間、その空間が割れ、中からドーパントの腕が伸びてきた。 「!」 とっさにタクティカルホーンを叩く。 “アームファング!” Wの腕をつかもうとしたドーパントの手が、出現したアームセイバーに切り裂かれる。 “ぐっ!” 手が引っ込もうとする、それをWの左手が逆に捕まえ、 「出て来い!」 一気に引きずり出した。そしてアームセイバーで立て続けに切りつける。 “―――!!” ボーダー・ドーパントの体表で立て続けに爆発が起こった。 さらに斬りつけようとしたが、ボーダーの背後の空間が裂け、その中からどっと水が噴き出しWを呑み込む。 「うっ!」 突然のことで面食らい、思わずボーダーを掴んでいた手を離してしまった。 その隙に、ボーダーは空間の裂け目に姿を消す。 “おい、何か昨日と違わねえか?” と翔太郎。 「そうだね、戦法がより多彩でパワフルになっている。かなりのパワーを消費しているはずだ。まるでリミットが外れたような」 フィリップが冷静に分析する。 “じゃあ、それだと・・・” 「そう。使用者の精神と肉体は極限にまで酷使されるはずだ」 “やべえぜ!早くやつを止めねえと” 「翔太郎、静かに・・・」 Wはゆっくりと身構え、タクティカルホーンを三度叩いた。 “ファング!マキシマムドライブ!” Wの脚に刃が発生した。 Wはそのまま身を沈めて待つ。 マキシマムドライブ発動音のみが辺りに響く。 と、Wの背後の空間が揺らぎ、黒い影が出現した。 「そこだ!」 ファングジョーカーの鋭敏な感覚がその出現を察知し、一瞬のうちに身を翻す。 「「ファングストライザー!!」」 竜巻とともに回し蹴りを繰り出す、しかし、その蹴りをその相手はがっちりと受け止めた。 「なに!」 “ククク・・・さすがの反応です。しかし、これ単独では・・・私には効きませんね” そこにいたのは、ウェザー・ドーパントだった。 「何!井坂深紅郎!?」 “アクセルは別世界に放り出して今はあなたたちだけ。そして今・・・そのあなたたちも引き裂いてあげましょう” ウェザーが凄まじい突風を吹き出してWを吹き飛ばす。 「うわっ!」 その向こうに、空間がぐわっと口を開いた。 Wはその中に呑み込まれる。 空間が閉じ、そこにはウェザー・ドーパントのみが立っていた。その姿が井坂深紅郎に戻る。 その前へボーダー・ドーパントが現われた。彼も同じように黒須良の姿に戻り、そして、その場にばったりと倒れた。 「見事な力でしたよ」 井坂はそれを見下ろしながらにやりと笑った。そして、 「これでやつらも分断された。もはや恐れるに足りん・・・・」 高笑いしながら、その場を立ち去った。 |
「―――はっ!」 翔太郎は目を覚ました。 「何だ?変身が・・・!」 意識を取り戻したということは、変身が解除されたことを意味する。 「どうしたんですか?翔太郎さん!」 何か異常事態が起こったことを察した蓮子が翔太郎に声をかけた。 「変身が強制解除された・・・」 翔太郎は直前の状況を思い出した。ウェザーに吹き飛ばされて、空間の裂け目に飛び込んで・・・しかし、この世界にいるならば、どこに転送されようとも意識は共有でき、変身も解けないはずだ。それができないということは・・・・・・ 「まさか・・・フィリップが・・・別世界に・・・」 「えっ!?それって・・・」 蓮子が驚く。「それじゃあ・・・」 「フィリップと分断されちまった・・・」 翔太郎は唇をかんだ。 念のためにスタッグフォンでフィリップにつないでみたが、圏外でつながらなかった。どこへ飛ばされたのか・・・それにもし、飛ばされた先が悪かったら、フィリップの命に関わるのではないか?ファングメモリはフィリップとともに向こうに行っているだろうから、ある程度は安心だが・・・ 「フィリップ・・・・・・!」 翔太郎は呆然として立ち上がった。 |
(中編終わり。後編へつづく)
仮面ライダー!W! “おまえは何をしてきたのかね・・・” 「は?」 “彼を連れ戻せ・・・この世界の秩序を乱すことは許されない・・・” 「・・・何だか切ない話ね」 「人の心を読んで判った気になるからそういうことになっちゃうんだよ」 「――この世界の“地球の本棚”にアクセスできた」 「さっきは助けてくれてありがとう、“おくう”」 「スキマがまだ開いてるわ!」 「姉さん!」「良!」 「姉と弟の絆を弄びやがって・・・おまえは絶対に許せねえ!」 「私たちも・・・」 「二人で一人の・・・」 「「秘封倶楽部だから!!変身!!」」 “タイフーン!ミラクル!” これで決まりだ! |