東方ディケイド


 

 (アバンタイトル)



「あなたは・・・八雲・・・紫」
「久しぶりね、鳴滝さん」
「なぜあなたの世界に奴等を」
「祭りの場所はここか?ってね。面白そうなことしてるから、私たちもまぜてもらおうと思って」
「これは祭りでも遊びでもない!」
「嵐のような時代もはたから見れば何とやら。ここでの結果はあなたたちの世界の崩壊には直接関与しない。それにもし“彼”が
ここで倒れるようなことがあれば、それはそれであなたにとっては良いことではないかと。悪い話ではないと思いますわ」
「・・・・・・わかりました。あなたは私が何を言っても聞きますまい。しかし、私のやることには手出し無用でお願いしたい」
「幻想郷はすべてを受け入れます。ご存分に・・・」
「・・・それでは失礼する!」



「うふふ・・・どんな面白いことになるかしら」



(OP)

 



 「なんだ、これは」
 光写真館を出た門矢士は自分の姿を見て顔をしかめた。
 「あはは、士くん、それって神職さんのかっこじゃないですか」
 光夏海が笑う。
 小野寺ユウスケも大笑いしながら、
 「士、神主さんでもやるのか?」
 「うるさいなおまえら。バチ当てるぞ」
 士は噛み付くように言った。
 士の姿は、白衣に浅葱色の袴そして草履を履いた、神社でよく見る神職姿だった。芴も白衣のすそからのぞいている。
 ただ、首からピンクのカメラをぶら下げているのが異質だった。
 「この世界でお祓いでもやれってのか」
 辺りを見回す。今まで旅してきたような現代の世界ではなく、何かのTVか本で見たような百年くらい前の田舎の町の風景。タイムスリップでもしたかのような感覚に陥る。いや、本当にタイムスリップでもしてしまったのか。
 「ここはどんな世界なんだ?」
 今まで旅してきた世界は、おおむね自分が「なぜか」知っている世界だった。「RX」の世界であっても。だが、この世界はまったく記憶にない。
 「この世界にライダーはいるのか・・・?」
 「おはようございます」
 その時、横合いから女性の声が聞こえた。そちらを向くと、青い衣を着た、細身の娘が立っている。知的な表情で、銀色の長髪が美しく、頭には宝塔みたいな形の変な帽子をかぶっている。
 「ああ・・・おはよう」
 士はやや面食らったが、彼女の仕草があまりにも丁寧だったので、思わず挨拶を返す。
 「誰だあんた」
 士の不躾な問いに娘はとくに表情を変えることなく、
 「失礼した、私の名は上白沢慧音。すぐ近くで寺子屋をやっている」
 と答えた。
 「寺子屋!」
 ユウスケが目を丸くする。「えらく古風な言い方・・・」
 慧音の後ろを見ると、確かにそれらしい建物が見える。
 「おまえもあそこで勉強してきたらどうだ?」
 と士。ユウスケは眉をひそめて、
 「どういう意味だよそれ・・・」
 夏海がすかさずフォローを入れて、
 「士くんはこの世界について勉強しろって言ってるんですよ」
 「そ、そういうことか士」
 ユウスケがちょっと恥ずかしそうに言った。「おれはてっきり」
 「それで、おれは何をすればいいんだ?」
 士はそれに関せず、慧音に質問した。
 慧音はうなずいて、
 「ああ、この里から東に進んだ山の麓に『博麗神社』というお社があるのだが、そこにいる巫女の『博麗霊夢』の手伝いをしてほしいということだ」
 「本当に神職さんやるんですか」
 夏海が目を丸くする。「士くん、できるんですかそんなこと」
 「さあな、掃除してお茶飲んでりゃいいんだろ」
 士は肩をすくめて言った。
 慧音は笑って、
 「その調子だと霊夢と息が合いそうだな。東門を出て道なりに進んで、ちょっと山を登った高台に鎮座している。道は難しくはないが、石段を登るのがちょっときついかもしれない。あと、妖怪が出るかもしれないから、注意することだ。まあ、博麗神社に勤めるくらいだから、それくらいは大丈夫だと思うが」
 「だいたいわかった。せいぜい気をつける。じゃ、行かせてもらうぞ」
 「ああ、気をつけて」
 「私も行きます。神社にお参りに」
 と夏海。
 「おれもおれも」
 言いかけたユウスケに、
 「おまえは寺子屋でお勉強だ」
 と士。
 ユウスケはがっくりとなった。

 

 「待てー!泥棒ー!」
 「君は待てと言われて待つのかい?・・・変身」
 “カメンライド・・・ディエーンド!”
 人間の里からやや離れた所にある魔法の森、その中にある一軒の家から一人の青年が飛び出し、直後に一人の少女がそれを追いか けて走り出てきた。青年―海東大樹は前転するとディエンドライバーを抜いてクルクルと回し、カードをセットしてスライド、トリガーを引いて仮面ライダーディエンドに変身すると少女に対峙した。
 「うわ、変身!?」
 少女―霧雨魔理沙が目を丸くする。
 「君もこの世界では盗賊と有名みたいだけど、僕のほうが上手のようだね」
 ディエンドはあざ笑うように言い、一冊の本を顔の横で振ってみせた。
 「巷で噂のお宝、いただいたよ」
 「書き上げたばかりの私の本・・・返せっ!」
 魔理沙が懐から一枚のカードを抜き出した。
 「君もカードを使うのか」
 ディエンドは肩をすくめて、こちらもカードを抜く。「どちらのカードが強いか、ちょっとだけ勝負してみようか?」
 「後悔するぜ!」
 魔理沙はカードを掲げる。「“イベントホライズン”!」
 “アタックライド・・・ブラスト!”
 無数の星と光弾とが乱舞し、両者の中央で激突、炸裂消滅した。
 その衝撃で二人が後方に吹き飛ぶ。
 「うわ!」「くっ」
 先に立ち上がった魔理沙が二枚目のカードを抜き出した。「続いて食らえ!」
 「おっと、僕は戦いに来たんじゃないよ」
 ディエンドは尻餅をついたままカードをドライバーに挿入しスライドさせた。
 “カメンライド・・・ライオトルーパーズ!”
 三人のライオトルーパーが出現し、魔理沙に襲い掛かる。
 「うわっ」
 魔理沙は飛びのく。
 「じゃあね」
 “アタックライド・・・インビジブル!”
 ディエンドの姿が消えた。
 「ま、待て!このやろー!グリモワール返せええええ!」
 マスタースパークでライオトルーパーたちを吹き飛ばしながら、魔理沙はむなしく叫んでいた。


 「・・・・・・と、いうことだったんですけど」
 妖怪の山の上、守矢神社の神殿(ごうどの、風祝の住居)。風祝の東風谷早苗は二柱の神に、たった今起こったことの報告を行っていた。
 「ふうん」
 八坂神奈子は縁側に頬杖をつきながら、「ディケイド・・・そいつがこの世界を破壊、ねえ」
 「どんな感じの人だったの?」
 と洩矢諏訪子。「早苗は騙されやすいから」
 「わ、私はそんなに軽はずみじゃないです」
 早苗はむっとして、「そ、その、表情も声も真剣でしたから、嘘をついているようには見えませんでした」
 「鳴滝、っていったのか」
 よっ、と神奈子は起き上がって、「幻想郷の人間ではないのだろう?」
 「はい、どこか他の世界から来た人のようです」
 「最近はいろいろ多いな・・・まあ、私たちもだが。にしても、仮面ライダーねえ・・・TVの中での話と思っていたが」
 「本当にいるんですね!ライダー!」
 早苗が目を輝かせている。
 「ライダーも好きだったっけ」
 と諏訪子。早苗は両手をぐっと握って、
 「てつを最高ですっっ!」
 諏訪子は神奈子を見やって、
 「神奈子が録画してたんだっけ」
 「ああ・・・あれはいいものだぞ。あの熱さと勢いは素晴らしい。変身ポーズも最高だ・・・」
 諏訪子はちょっとため息をついた。こういうことしてるから信仰減ったんじゃないの?
 その時、神奈子が玄関のほうを見て、
 「しかし、奇遇だったな。丁度いい」
 と言った。
 「え?」
 早苗が声を上げたとき、
 「おはようございまーす」
 と玄関のほうから声がした。「谷ガッパの河城にとりでーす」
 「通してくれ」
 と神奈子。
 「は、はい」
 早苗は急いで立ち上がり、玄関へと向かった。
 「何なの?」
 と諏訪子。
 「おまえが巨大ロボなら、こっちは・・・ということさ」
 神奈子は笑いながら言った。
 「・・・・・?ま、まさか・・・・」
 諏訪子は、神奈子の無邪気な目の輝きを見て、何かいやな予感がした。


 
 士と夏海は博麗神社への道を歩いていた。
 夏海はあたりをきょろきょろと見回しながら、
 「見渡す限りの自然の風景ですね・・・見てください、すっごい高い山!あ、あっちに湖が見えます」
 「寄り道するなよ、妖怪に取って食われても助けてやらないぞ」
 「妖怪って言ってましたけど、この時間に妖怪なんて出ないですよね」
 「どうかな」
 やがて二人は山の麓までやってきた。石段がまっすぐ上のほうへ伸びている。
 「わあ、結構ありますね」
 「ま、行くしかないか」
 士が石段を登ろうとしたその時、目の前に霧がすうっと立ち込め、続いて渦を巻いて集まりはじめた。
 「士くん!」
 「何だ!?」
 士は飛びのく。
 霧はみるみる濃くなり、やがて、長い二本の角の生えた少女の姿をとった。
 「お、鬼!?」
 夏海が驚く。士も目を丸くして、
 「こんな小さな女の子の鬼なんかいたのか」
 「いや驚くところそこですか?」
 鬼―伊吹萃香は石段に腰掛け、
 「ここから先は博麗神社。何の用?」
 と訊いてきた。
 「アルバイト募集って聞いてな」
 と士。「ところで何で神社に鬼がいるんだ。鬼は外、だろう」
 萃香は言った。
 「聞いたよ。あんた、世界を破壊して回ってるんだって?」
 「あいつ・・・もういろいろ言いふらしてるのか」
 「霊夢を倒しに来たんだろう。そうはさせないよ」
 「違う。おれはそんなことをしに来たんじゃない!」
 「そうです、士くんはそんな人じゃありません!」
 突如割り込んできた夏海の剣幕に萃香はやや気圧されたが、すぐに立ち上がって、
 「どちらにせよ、博麗神社で働こうってんなら、妖怪と付き合えなきゃ死んじゃうよ。ちょっと、私と手合わせしてもらおうか!」
 萃香の周囲の空気が渦巻き、温度が上がる。
 「やれやれ、とんだ神社に就職したみたいだな」
 士は腰にディケイドライバーを装着、バックルのサイドハンドルを引くと、ライドブッカーからカードを取り出し斜め前方に掲げる。


 「変身!」
 カードをくるりと返してバックルにセット、
 “カメンライド・・・ディケーイド!”
 サイドハンドルを両手で押し込み、仮面ライダーディケイドに変身した。
 「変身かあ・・・じゃ、いくよ!」
 萃香がぴょんと跳ね、ディケイドに飛びかかってパンチを繰り出す。
 受けようとしたディケイドはその見た目に反した恐るべきパワーに弾き飛ばされた。
 「ぐっ!」
 「これでも“鬼”だからね。甘く見るとバラバラになるよ!」
 着地した萃香が拳にふっと息を吹きかけて言った。そしてその腕をぐるぐると回して、
 「それ!」
 火の玉をディケイドに向けて投げつける。それはディケイドにジャストミートし、ディケイドはさらに吹き飛ばされた。
 「士くん!」
 夏海が叫ぶ。
 「なるほど、小さくても立派な鬼ってわけか」
 ディケイドはカードを取り出し、
 「それじゃあ、鬼退治と行くか」
 バックルに叩き込む。
 “カメンライド・・・ヒビキィ!”
 ディケイドが炎に包まれ、それを振り払って仮面ライダー響鬼が姿を現す。
 「何に変わっても無駄無駄無駄!」
 萃香は髪の毛を抜くとふっと息を吹きかけて撒き散らす。すると、それらがそれぞれ萃香に変化し、響鬼に襲い掛かった。
 響鬼はアタックライドのカードを出し、バックルに挿入する。
 “アタックライド・・・オンゲキボウ・レッカァ↓・・・”
 響鬼の両手に音撃棒・烈火が現れた。
 「はっ!」
 烈火を振る。炎の弾がどっと飛び出し、萃香の分身を一撃で焼き尽くした。
 「おお、やるじゃん!」
 萃香が楽しそうに笑う。「それじゃ、これはどう?」
 空中に飛び上がり、右腕をぐるぐると振り回す。と、周囲の地面から大小さまざまな石が浮き上がり、その右腕に萃まってゆく。
そして、それが巨大な岩塊になったとき、
 「それ!」
 と響鬼に向かって投げつけた。
 「はああああ・・・」
 しかし響鬼は慌てることなく烈火を構え、
 「はっ!!」
 同時に岩塊に叩き付けた。
 岩塊は轟音とともに粉々に砕け散る。
 「おお、これも破った!楽しいねえ」
 萃香は瓢箪から酒をあおって、「それじゃあ、これはどうかな・・・!」
 両手両足をいっぱいに開いて大きく身を反らせる。凄まじい気が発散され、響鬼も一瞬たじろいだ。
 萃香は高らかに宣言する。
 「“ミッシング!パープル!p」
 その時、彼女の頭上に陰陽玉が思いっきり鈍い音を立てて命中した。
 「ぷぅああああぁぁぁ・・・」
 萃香は石段の下に墜落、気絶する。
 「まったく、神社の前で何暴れてんのよ」
 見上げると、石段の上空に一人の少女が浮かんでいた。
 長い黒髪を赤いリボンでまとめ、白衣、赤いスカートを身に着けている。一般的な巫女姿とはかなり違うが、おそらくこの神社の巫女なのだろう。
 士は変身を解く。
 「おまえもこの鬼のお仲間か?」
 「誰が。私はれっきとした人間よ」
 少女はすーっと士の前に下りてきて着地した。
 「私は博麗霊夢。この神社の巫女をやってるわ。あんたは門矢士・・・神社を手伝ってくれるんでしょ?」
 「ああ、よろしく頼む」
 「はいはい。じゃ、上がってきてね。お茶の支度してるから」
 霊夢はまた飛び上がると石段の上へ飛翔、あっという間に姿が見えなくなった。
 夏海はそれを見ながら、感心したように言った。
 「・・・・・・この世界の巫女って、空を飛ぶんですね」
 士はふんと鼻を鳴らして、
 「飛べるんなら一緒に連れて行ってほしいもんだ」
 さっそく石段を登り始めた士に、夏海は言った。
 「士くん、この子、どうしましょう」
 士は目を回して気絶している萃香を一瞥して、
 「ほっとけ」
 「あ、待ってください士くん!」
 夏海は急いで士のあとを追った。

(Aパート終わり、CM)


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