東方で必殺やってみた


 

(BGM:禍機)
「咲夜さん、今日はお嬢様もお連れなのですか」
と幽々子。
「ええ、どうしてもって聞かなくて」
と咲夜が頬に手をやって答える。
「何ばれてるのよ」
霊夢が顔をしかめる。「あー、手取りが減るー」
「あー?はした金なんていらないよ」
とレミリア。「あの人間にはこっちでの暮らし始めのときにいろいろと世話になった。
それを姦計に嵌めて殺めるとは、絶対に許さない」
「タダでやってくれるの?」
と霊夢。
「そんなに目を輝かせないで下さい」
妖夢が顔をしかめる。
「それにしても、化物が人間に恩を感じるとは意外です」
「うん?」
レミリアは妖夢のほうを向いて、
「人間より我々化物のほうがルールや約束、恩義に忠実なのだよ。
人間はいともたやすくルールや約束に背き、恩義を踏みにじる」
と軽蔑するように言う。
妖夢がむっとしたのを見て幽々子が、
「はいはい、ここは争いの場ではありませんよ」
と言い、四両を床の上にすっと差し出す。
「相手は、旗本某、廻船問屋○○屋主人某、博徒衆△△屋顔役某、
□□寺住職某・・・」
「待ちなさい」
レミリアが口を挟んだ。「△△屋はあの人を寄ってたかって襲撃したんでしょう。
皆殺しにすべきじゃない?」
幽々子はうーんと首をかしげて、
「ずいぶんな人数よ?」
レミリアは鼻で笑って、
「私がやる。全員殺す」
「あらあらー」
幽々子は少し考えて、
「じゃ、それでお願いね」
と言う。「でも仕事料は――」
「いらない。咲夜に小遣いあげるだけでいいわ」
「ふう」
霊夢が胸をなで下ろす。
「よっぽど困ってるんだな」
小町がくっくっと笑う。
霊夢、
「うるさいわね」
幽々子、
「では、お願いね」
言い終わるとすうっと姿を消す。
霊夢、小町、咲夜、妖夢は小判を一枚ずつ取ると、
各々立ち去る。

(BGM:あゆのかぜ)
夜空に薄雲がかかり、月が紅に染まっている。
その下をゆっくりと歩いてゆくレミリアと咲夜。
川霧の中を漕いでゆく小町。
左手に楼観剣を携えてすたすたと歩く妖夢を追い越してゆく。
紅い月を窓から見つつ、霊夢が針と札を袖に納めて神社を出る。


(BGM:フラワリングナイト・緋想天ver)
△△屋邸宅門前。咲夜とレミリア。
「お嬢様」
「何?」
「本当にこのまま正面から入られるおつもりですか?」
「この私に、人間相手にこそこそ物陰から忍びこめと?」
「失礼いたしました。でも、仕事というよりは殴り込みですね、これ」
「建物ごと焼き払わないだけ感謝しなさい・・・門番がいるわ。露払いをお願い」
「かしこまりました」
咲夜の姿が消える。
「誰だ!」
門番がレミリアの姿に気づく。レミリアはそのまま歩いてくる。
「何だ、ガキか」
「南蛮人だぞ」
「帰れ帰れ。おまえのくるところじゃない」
レミリアはなおもそのまま歩いてくる。
「言葉がわからないんじゃないか」
「南蛮の言葉なんて知るかよ」
レミリアは二人の前までやってきた。そして言う。
“Open sesami”
「え?何だって?」
聞き返そうとした二人の目の前に突如ナイフが現われ、
それが彼らの最期に目にしたものとなった。
ばたばたと倒れる二人。同時に門がゆっくりと開く。
(BGM:亡き王女のためのセプテット・萃夢想ver)
レミリアはすたすたと門内に入り、門の脇で礼をとる咲夜に、
「ご苦労様」
と声をかける。
「ありがたき幸せ」
と咲夜。
次の瞬間、扉は音もなく閉じてしまっている。
館から、やくざ達がどっと出てくる。
「誰だてめえら!」
やくざの一人がわめく。「何しに来やがった!」
「貴方達を皆殺しに」
レミリアが一同を見回しながら言った。
やくざ、
「ふざけるな。たかが女子供がどうやって入ってきた!他に誰かいるな?」
「説明するのは面倒だわ。咲夜」
「はい」
咲夜が両手をばっと広げる。
同時に今しがた言葉を発したやくざが胸にナイフを受けて倒れる。
レミリアはにやりと笑って、
「と、いうことよ」
「貴様ら・・・やれえええ!」
顔役らしい人物が叫ぶ。同時にやくざ達が一斉に二人に襲いかかってくる。
「ふん」
レミリアは嘲るように笑うと、音もなくふわりと宙に舞い上がる。
それを見てやくざ達は仰天し、呆然とその姿に見入る。
レミリアは紅い月を背景にして静止すると、くるんと前方に宙返りする。
その体から紅に輝く蝙蝠たちが無数に飛び出し、
やくざ達の胴体に張り付くと閃光を発してレミリアの方に六芒星形のトンネルを開く。
「な、何だ!」
「う、動けねえ!」
金縛りに遭って動けなくなるやくざ達。
レミリア、上半身を半分ひねって振りをつけると、一気に急降下。
物凄いスピードで、その姿は残像でしか見えない。
その残像は無数に分身、やくざ達の体から発する紅い光のトンネルに突っ込むと、
そのまま彼らの体を突き抜け着地、またひとつになる。
目をむいてぶるぶると震えているやくざ達。
その向こうでゆっくりと立ち上がるレミリア、そして指をぱちんと鳴らす。
同時にやくざ達の体の紅の刻印が一斉にはじけ、夥しい量の血が吹き上がり、
その体はぼうっと炎に包まれ、みるみるうちに灰となり崩れてゆく。
「汝ら塵ゆえ、塵に帰すなり―――」
つぶやくレミリアの側に咲夜が姿を現す。
「少しは気が晴れた。帰るわ」
「はい、お嬢様」
二人、闇の中に溶け込むように消える。


(BGM:東方妖々夢)
 料亭で食事をした旗本と店主、連れ立って店を出て帰途に着く。
「送っていこう。最近は物騒だからな」
「ありがとうございます」
二人は川辺の道を歩いてゆく。
旗本、なにかの気配に気づいて後ろをちらりと見やる。
剣を持った一人の少女がひたひたと後ろを歩いてきている。
旗本、鯉口を切り、
「あの木の陰に隠れておれ」
と店主に言ってくるりと振り向く。
「つ、辻斬り!?」
店主が震えながら言う。
「さあ、狐か狸かもしれん。下がっていろ」
旗本はゆっくりと刀を抜く。
妖夢はすたすたと歩いてくる。刀は左手に持ったままで抜く気配はない。
「誰だ!人か、魔か!」
旗本が鋭い声をかける、しかし妖夢は答えない。
さらに接近する、しかしまだ抜かない。表情も眉一つ動かさない。
旗本は正眼に構える。そして間合いに入った瞬間、一気に斬り付ける。
同時に妖夢が鞘に納まったままの楼観剣でそれをばしっと払い、
そのままの流れで剣を左肩に負うと右手で柄を握り、
抜き打ちで旗本を一刀の下に斬り捨てると、
担いでいた鞘をすっと前に出し、納刀する。
そして、また店主のほうにすたすたと歩いてゆく。
「ひいいいいい!!」
店主は恐怖の叫びを上げて逃げ出す。
妖夢はそれを無表情で追いかける。


「助けてくれ!」
逃げる店主。
その先の船着場には一艘の船が泊まっており、中では小町が寝ている。
(BGM:彼岸帰航or冥土へ漕ぎ出す渡し人‐「必殺渡し人」殺しのテーマ)
店主は川岸まで逃げてくると船に気づき、船頭がいるのを認めると、切迫した声で叫ぶ。
「そこの船頭!起きてくれ!」
「ああん?」
小町、目をこすりながら起き上がる。「何か用かい?」
「“向こう岸”まで渡してくれ!金ならいくらでも出す!」
小町、首と肩を回して、
「“彼岸”までだね?ああ、いいよ。乗りな」
立ち上がって櫂を手にする。「何かわけがありそうだしね」
「追われてるんだ!」
店主は船に乗り込む。「早く出してくれ!」
「あいよ」
船は岸を離れる。
しばらくすると、店主はようやく一息つく。
「何に追われてたんだい?追いはぎか何かかい」
と小町が訊く。
「辻斬りだよ!」
と店主が答える。「いや、あんな子が侍を斬れるわけがない、きっと化物だ!」
小町は笑って、
「化物?」
「本当だ!」
店主が食ってかかる。「殺されるところだったんだぞ!」
「へえ」
小町はあまり信じていなさそうな口ぶりで、
「何か祟られることでもしたんじゃあないのかい?」
「こんなこと、冗談で言うものか!」
店主が怒って言う。
「はいはい、何にせよただ事じゃないようだしね」
小町は苦笑して、「まあ、もう安心さ」
その時店主が、船の舳先に深々と刺さっている大鎌の刃に気づいてぎょっとする。
「そ、それは・・・」
「これかい?」
小町は笑って、
「お諏訪さんでも鎌を神事に使うって言うだろう。魔除けがわりさ。
河童も獺も寄り付かないってね。
だから、化物も寄り付かない。この船に乗ってれば、安心だよ」
「そ、そうかい」
店主はやや怯えたような表情で小町を見上げる。
「大丈夫大丈夫」
小町は笑った。「ちゃんと“向こう”まで渡してやるからさ」
しばらくして、船が対岸に着く。
「さて・・・」
小町が水中から櫂をすいっと抜く。
「着いたか、助かったよ」
店主が懐から一両を出す。「釣りはいらないからね」
「あんたのような人間はこんな大金、どこから手に入れるんだろうね」
小町は小判をつまんでひらひらさせながら、横目で睨みつつ問う。
早く逃げたい店主はいらいらしたように、
「どうでもいいだろう!」
「あっそう」
小町は小判を水の中に放り込む。
店主は驚いて、
「何をする!」
「汚いお金は要らないよ。それに・・・まだ、私の仕事は終わっちゃいない」
小町はそう言いながら、取り外し可能になっている櫂の先をくるりと回して外し、
長い柄をひゅん、と一回転させるや舳先に刺さっている大鎌の刃の差込口へガンと突き入れる。
「最初に言ったろ?“彼岸”まで渡してやるってさ」
そして両手で「大鎌」を引き抜き、ぶんと回して構える。
「閻魔様のところまでね!」
「ひ、ひいいいい!」
店主は岸に飛びつき、起き上がって逃げようとする、
しかしすかさず小町は跳躍、大鎌を一閃する。
ばったりと倒れる店主。
小町は鎌を下ろすと懐に手を入れ、
「冥途の駄賃だ」
絶命した店主の背に六文を放る。
「迷わず閻魔様にしっかり裁いてもらいなよ」
そして船に戻ると大鎌で岸を突き、川霧の中に消えてゆく。


(BGM:少女綺想曲・萃夢想ver)
仏壇の前で経を上げている住職。暗闇の中、灯明を点しひとり般若心経を唱えている。
「観自在菩薩・・・・」
唱えているうちに、誰かが自分に合わせて心経を唱えているのに気づく。
はっとして思わず唱えるのを止め、後ろを振り向く。
その口に札が張り付き、住職は目をむく。
その背後に霊夢が飛び降り、住職の肩を掴むと咥えていた針を抜き、
ひぃんと小さく風を切って針を回転させると、
「羯諦羯諦波羅羯諦波羅僧羯諦菩提薩婆訶・・・」
と唱えるや住職の耳に針を突き刺す。
「真言の通りに彼岸に行きなさい」
力を込め、ぐるんと針を回す。
住職がくるんと白目をむく。
霊夢はすいっと針を抜き、力なく倒れた住職の口から御札をはがすと、
仏壇を見上げて、
「じゃ、あとは任せるから」
と言い、灯明を消す。暗転。








(BGM:以魚駆蠅)
一夜明けた紅魔館。
「さくやー」
自室で一眠りしたレミリアが咲夜を呼ぶと、
「はいお嬢様」
すぐに側に姿を現す。レミリア、自分の襟をちょんちょんと指して、
「気に入っていたブローチを落としてしまったみたい」
咲夜、目を見張って、
「あら・・・あそこで落としてしまったのでしょうか」
「あそこを出るときはあったんだけど・・・帰りに落としたみたいね」
「探してきましょうか」
「面倒になったらいけないわ。いい」
「かしこまりました」
「でも、代わりが必要ね」
「それでしたら、あの人のご子息が今度店を出すそうですので、
そこで買われてはいかがでしょう」
「そうなの?」
「ええ、先ほどこちらにいらして、お嬢様にそうお伝えくださいと」
「何よ。早く言いなさいよ。もちろんそこで買うわ」
「きっとそう仰ると思っておりました」
「あと、援助もしてあげないとね」
「それでこそお嬢様でございます」
その時、ドアの外で轟音が轟き、
「りゃー!」
「い、妹様、お止め・・・ぎゃー!」
ドアがばたんと開く。
そこに立っていたのはフラン。レミリアを睨んで怒鳴る。
「お姉さま!人には外出するな力を見せるなと言っておいて、
自分はこっそり出かけて人間殺しまくって気が済んだとか、ずるーーーい!!
私も人間殺すー!殺させろー!」
「な、何でバレてるのよ」
レミリアが咲夜を見る。咲夜、
「だってお嬢様、帰ってくるなり『いやー、久しぶりに人間殺戮できてスッキリしたー』
とか言ってたじゃないですか。それ聞かれたんでしょう」
「言ったっけ?言ったとしても小声ででしょ?」
「デビルイヤーは地獄耳、もはやこれは常識・・・!」
フランが歩いてくる。「ゆーるーさーなーいー」
「ごめんごめんフランごめんつい義憤に駆られちゃってさそうこれは正義の行いだったのよ
正義なら仕方ないでしょ正義正義」
「正義とか知るかーーー!」
「ひいいいさくや助けてー!」
「援助より先にこちらの修理のほうが先になりそうですわね」
「冷静に分析すんなー!」
「クランベリートラップ!」
「くっ、しゃがみガードォォォ!」
「それでは、お茶とケーキのご用意をしてまいります」
「まってえさくやー!」

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